火曜日, 10月 04, 2011

放射線と子どもたちの心臓病

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放射能被曝による健康障害について、政府はもとより医学界や放射線の専門家たちはガンと白血病に注目しています。たしかにガンと白血病という深刻な病気を引き起こす要因であることは広島・長崎の被曝者そしてチェルノブイリ事故の被曝者のデータから明らかにされています。これは国際機関であるIAEA(国際原子力機関)、そしてそれが影響力を持つWHO(世界保健機構)も認めています。連日のマスコミ報道もまずガンということがなによりも焦点になっていますね。

しかし、これは恣意的、政治的に誘導されている見方だとヨーロッパに本部を置くECRR(欧州放射線リスク委員会)は主張しています。

原子力産業は背後に軍を抱える世界最大の産業であることから、その政治的影響力は絶大です。本来なら独立した民間機関であるIAEAやICRP(国際放射線防護委員会)も原子力産業の庇護のもとにあると言って間違いないでしょう。

ですから、放射能の危険性についてIAEAやICRPの指針は基本的に原子力産業擁護にならざるを得ません。つまり、なるべく放射能からの人体への影響を少なく評価するのがこの世界では以前から当たり前になっています。経済性のため、お金のためなら多少人間の犠牲が出ても仕方がないというのです。

日本政府や電力会社そして医学界も公にはそうはっきりとは言いませんが、いま彼らがやっていることを見れば自明なことです。

ガンと白血病ばかりを放射能の最大の影響としている政府やTEPCOや学界、そしてそれを報道するマスコミの主張は、広島・長崎とチェルノブイリによるガンと白血病の発症が極めて少なかったということに基づいているからです。ですから、今回の福島原発事故によるガンと白血病も人々が心配するほど起こらないというわけです。

しかし、そもそもIAEAやICRPの広島・長崎とチェルノブイリの健康被害データは信用できないとECRRは主張しています。実際はもっと深刻な影響が出ているのだと。2009年米国科学アカデミーはチェルノブイリ事故による世界の死者数は100万に達すると発表しました。これはわずか死者数千人とする政府側とはその差があまりにも際立っています。

もうひとつ、なぜ政府や原子力産業や諸機関がガンと白血病だけに注目し、ほかの病気はほとんどないと主張しているのか、その理由があります。

それは、被曝した人たちはガンや白血病を発症する前に心臓病で亡くなっている事実があることを認めたくないからです。

チェルノブイリ事故によって最も汚染されたベラルーシ出身で元ゴメル医療センター代表のユーリ・バンダシェフスキー教授は、子どもたちに心臓発作が頻繁に起きていることに気づき、それが放射線核種のセシウム137が原因であることを突き止め、ベラルーシ政府に早急な対策を講じるように求めました。ところが2001年、逆にバンダシェフスキー教授はまったく関係のない脱税罪で逮捕され8年の刑を宣告されました。これに対して不当な投獄から教授を救おうとアムネスティインターナショナルが国際的なキャンペーンを張り、またECRRのメンバーが欧州議会に働きかけて、欧州議会がバンダシェフスキー教授にパスポートを特別に発行することを決議した結果、2005年にやっと彼は釈放されました。

2009年のECRRギリシャ・レスボス会議でバンダシェフスキー教授は論文を発表し、その際エドワード・ラッドフォード記念賞を授与されています。

放射線被曝と心臓病との深刻な関係を示したこの論文は以来ECRRの内部資料とされ一般には公開されていませんでしたが、福島原発災害による深刻な健康被害が予想されるために、ECRRは今回この論文を急遽公表することにしました。

まず、ECRR科学議長バズビー博士の福島の人たちへの緊急声明ビデオです。



そして、バズビー博士から送られてきたバンダシェフスキー論文を解説する「福島の子どもたちの放射線被曝と心臓発作」を紹介します。

文中の図2.8「ベラルーシの死因構成、2008年」を見れば、心臓病による死が53%でガンはわずか14%であることが分かります。


バズビー博士は、福島の子どもたち全員にECG(心電図)テストを早急に実施し、不整脈のある子どもは直ちに汚染ない地域に避難させるべきだと忠告しています。

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福島の子どもたちの放射線被曝と心臓発作

クリス・バズビー

放射線被曝はガンと白血病を引き起こすと一般に考えられています。それは現在の放射線防護システムのリスクモデルが被曝による最終結果として予想しているものです。そのように、被曝した人が何年も経ってからガンを発症するのです。高線量では深刻な決定論的影響があり、結果として死に至ることが認められています。私は放射線核種のセシウム137の内部被曝による非ガン性影響について話したいと思います。これは、原子炉から出る寿命の長い主な汚染物質のひとつで、チェルノブイリのフォールアウト(放射性降下物)と福島からの汚染に存在していました。この物質に子どもたちが慢性的に被曝するときの影響と、それがどのように心臓の発達障害をもたらすのかについて考察したいと思います。
 
まず、これについて推測する必要はありません。データがあるからです。ユーリ・バンダシェフスキー教授がチェルノブイリ事故汚染によるベラルーシ地域の子どもたちの汚染被曝の影響について広範囲な研究を行っています。彼は、セシウム137平均体内負荷量が40Bq/kg以上の子どもたちが、不整脈、心不全(狭心症)、心臓発作などの致命的な心臓疾患に罹ったことを実証しました。以下の図1は、彼がその貴重な研究に対してエドワード・ラッドフォード記念賞を授与された2009年欧州放射線リスク委員会レスボス会議に寄与されたバンダシェフスキー論文からのものです。それによれば、約20Bq/kgを越えるレベルの汚染被曝をした子どもたちに、ECG(心電図)検査による不整脈が現れているのが分かります。

体内セシウム137のJPG
(図1)体内セシウム137濃度と不整脈(ECG修飾)のない子どもの数(バンダシェフスキー)


この研究のお陰で、彼はベラルーシ政府によって数年間刑務所に送られてしまいました。EUからの大きな圧力と、そしてEUが彼のパスポートを発行した後に、やっと彼は解放されました。

私はこの問題がどのように起こるのか、そのメカニズムについて簡単に説明したいと思います。


子どもの心臓モデル


ICRP(国際放射線防護委員会)の参考人体データによれば、5歳児の心臓質量は220gで、その組織細胞だけでは85gです。心臓は重要な器官で、そのはたらきは驚くべきものです。人間の一生を通して休みなく血液を送り出さなければいけません。心筋細胞はからだで最もエネルギーを費やす細胞で、疲れることなく、人間の平均寿命の間に30億回以上も休みなく収縮運動を繰り返します。人間の心臓ポンプの30億回にも昇る鼓動活動によって、7000リットルの血液が、無意識に、10万マイルの血管を通して毎日送り出されているのです。
心臓の筋肉細胞数は3 x 109個あるとされています。そのシリンダー状の寸法は約100-150μの長さで 20-35μの直径です。それらは1年に約1%の速さでしか再生されないので、心臓発作を経験した人なら皆ご存知のように、その細胞が傷つくことは非常に深刻なことです。

人間の心臓中に3 x 109 個の細胞があるとすると、細胞質量が85gの子どもの心臓の細胞密度はKg当たり3.5 x 1010になります。

セシウム137核種が筋肉に濃縮されることは長年にわたって知られています。50Bq/kgのセシウム137がこの心臓の筋肉細胞に入るとしましょう。これはセシウム137のベータ粒子から50の飛跡に当たり、たぶんその娘核種のバリウム137mのガンマ線崩壊から1秒間に20の飛跡もあるでしょう。これは合計70の飛跡/秒になります。それぞれの飛跡は約400個の細胞を攻撃します。セシウム137の汚染地域に住む慢性的にこのレベルの汚染を受ける子どもたちの場合、1年間の飛跡数は単純にKg当たり70x 60x60x24x365 = 2.2 x 109 になります。これは1個の放射線電子飛跡にヒットされる細胞数がKg当たり8.8 x 1011ということです。

このモデルでは、私たちはすべての心臓細胞が一つの放射線飛跡によって約25回ヒットされることがすぐわかります。もしこれらの飛跡のたった1%で細胞が死ぬとしたら、子どもの心臓はその機能の25%を失うことになります。その細胞がすべて死んでしまうからです。細胞の壊死は、老人の場合と同様に、伝導性の問題をもたらし、心臓不整脈と心臓発作が結果として起きて来ます。留意しなければいけないのは、心臓の筋肉は非常にゆっくりと以外は再生できないことです。実際、心臓細胞は再生しないものと元々考えられていました。60年代の大気核実験による炭素14が心臓中にあることが発見されたことで、1年で1%の細胞の再生があることが分かったのです。ですから、心臓はからだの非常に重要な器官であることが分かります。その細胞が破壊されると修復できないのです。チェルノブイリの子どもたちが心臓病に掛かり死んで行くのはそのためです。ベラルーシの成人人口が心臓病に掛かり死んで行く理由です。(図2、3:バンダシェフスキー2011)

ベラルーシ共和国の心臓病推移のJPG
(図2)ベラルーシ共和国の心臓病推移

ベラルーシの死因構成、2008年のJPG
(図3)ベラルーシの死因構成、2008年

福島

最近、福島の放射線汚染によって子どもたちに心臓発作が起きていると私たちは聞きました。従ってこれは予想されたことで、心筋中のセシウム137やほかの放射線核種による内部汚染の結果です。この発症の重大性を考え、ECRR委員会は2009年レスボス会議でのバンダシェフスキー論文を発表することにしました[http://www.euradcom.org]。

福島の汚染地域居住者について

これらの考察によって、汚染地区でセシウム137を飲食・呼吸している子どもたちに、臨床調査とECG(心電図)検査を行うことが急務です。心臓異常があるとされる子どもたちは全員直ちに汚染のない地域に避難させるべきです。もし心臓疾患がある子どもたちが見つかれば、すべての子どもたちを避難させることが緊急課題であるべきです。

放射線リスク評価の意味

放射線リスクの疫学的研究の評価項目(エンドポイント)としてガンと白血病にことさら注目するのは、年齢に対するガン発症率が心臓と循環系発症率では異なる傾向があるので、間違った方法です。この問題は放射線犠牲者の遡及調査を行えば明白なのですが、この方法を使う人たちはまだこのことを考慮に入れてないので、リスク係数の開発と実証ができていません。例としては、核実験兵士、ラジウムとトロトラスト被曝患者です。明白な論点は、心臓発作で死ねばガンは発症しないということです。この症候群は図3のベラルーシでも明らかですから、福島での場合は健康管理に於いて非常に重要になります。バンダシェフスキーによって明確に示されている内部核種被曝による広範囲な非特異性老化の影響が、たくさんの死をもたらす結果になることが危ぶまれます。これは図4にあるように、ベラルーシ人口がチェルノブイリ以後にマイナス人口置換になったことに示されています。

ベラルーシ共和国人口指数、1950-2004のJPG
(図4)ベラルーシ共和国人口指数、1950-2004(バンダシェフスキー2011)

2011年9月9日
クリス・バズビー
訳:森田 玄




以下は、バンダシェフスキー教授の論文「チェルノブイリ事故による放射性物質で汚染されたベラルーシの諸地域における非ガン性疾患」です。田中泉さんが訳してくださいました。


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