土曜日, 7月 30, 2011

死のゲーム:日本の核ルーレット

これは2004年5月23日にジャパンタイムズに載ったローレン・モレさんの特別寄稿記事です。

ローレン・モレさんのJPG

いま改めて読み返すと、彼女の言葉の一つひとつがほとんど現実になっていることに愕然とさせられます。そして同時に、そうなってしまったことでどんなにローレンさんが悲しく無念の思いにいるだろうと想像に難くありません。

ローレン・モレさんは、最後のプロフィールにあるように、アメリカの原爆開発の中心的研究所のひとつのサンフランシスコにあるローレンス・リバモア・核兵器研究所の研究員でしたが、内部告発者になって解雇されてから日本に来て、広島の原爆資料館を訪れて初めて放射能の本当の恐ろしさを知ったそうです。

それ以来、世界中で、そして日本全国で講演を行い、放射能の恐ろしさと原発の危険性についての情報を精力的に伝える活動をしてきました。

2006年には、この記事にも書かれているアーネスト・スターングラス博士を日本に招いて、二人で講演ツアーをしてくれました。(その時の講演記録はハーモニクスライフギャラリーのサイトで見られます)。

彼女は日本の自然と文化そして何よりも日本人をこよなく愛し、これまでも無償で私たちの活動を支援してくれています。最近では、欧州放射線リスク委員会(ECRR)科学委員長のバズビー博士の日本招聘の手伝いをしてくれました。(バズビー博士講演ツアー記録もハーモニクスライフギャラリーのサイトで見られます)。

原発を一日でも早く廃止することが急務です。

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死のゲーム:日本の核ルーレット

ローレン・モレ
ジャパンタイムズ特別寄稿


まともな精神の人間なら原子力発電所をいくつも建てようとは誰もしない世界地域のリストのトップに、日本は確実に入るでしょう。

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日本列島は環太平洋火山帯と呼ばれる南北アメリカ大陸、アジア、東南アジア島弧からなる大きな活火山、地殻構造環状ゾーンに位置します。この地域に発生する大きな地震と火山活動は太平洋地殻プレートの西方移動とアジアの下のほかのプレート沈み込みによるものです。

日本は沈み込み帯の端にあって、4つの地殻プレートの上にあるために、世界でも最も地殻運動の活発な地域のひとつに位置しています。海底下の激しいプレート活動による巨大な圧力と高温度によって日本の美しい島々と火山が生まれました。

にもかかわらず・・ジェネラル・エレクトリックとウェスティングハウスがすべての商業用原子炉の設計の85%を占める・・世界の多くの国々と同様に、日本は原子力を主要エネルギー源とする道を選びました。実際、世界三大原子力エネルギー国は、2000年に米エネルギー省で現存の118基の原子炉が認可されたアメリカ合衆国と72基のフランス、そして2003年内閣白書で52基の原子炉が運転中と記載されている日本です。

日本の52基の原子炉・・総発電量の30%をわずかに越える発電をしています・・がカリフォルニアと同じ大きさの地域にあり、それぞれが150km以内に位置し、そのほとんどは冷却用の海水が得られる沿岸地域に建てられています。

ところがこれらの原子炉の多くが活断層地帯の上に無頓着にも置かれています。とくにそこはリヒター・スケールでマグニチュード7~8の大きな地震が頻繁に起きる太平洋沿岸の引き込み帯なのです。日本で大きな地震が起きる頻度は10年以下です。日本ほど地殻的により危険な原発立地条件の地域は世界にありません・・原子炉としては世界で第三レベルの国にランクされます。

「今の状況は非常に危険だと思います」と、地震学者の石橋克彦神戸大学教授は言います。「いつ爆発してもおかしくない爆弾を抱えた神風テロリストのようなものです」。

昨年の夏、私は大地震の危険性を危惧する市民グループの要請で静岡県の浜岡原発を訪れました。その後私は記者会見で私が見出したことを話しました。

死のゲームのJPG

浜岡原発はふたつのプレートが交わる引き込み帯の真上に位置し、いつ大地震が起きてもおかしくないので、日本でもっとも危険な原発だと考えられています。

地元の市民たちと一緒に、私は原発施設周囲を歩いて回り、岩石を採集し、それが乗っている軟らかい堆積地層を調べ、その一帯をほぼ垂直に走っている断層の跡を追いました・・激しい地殻運動の証拠です。

翌日、掛川市民ホールと静岡県民ホールでの記者会見にたくさんの記者が来ているのに驚きました。ひとりのアメリカ人地球科学者の話を聴くためにどうしてわざわざ東京からやって来たのかと記者たちに訊ねると、今まで日本の原発がどんなに危険かを伝えるためにわざわざ来た外人はだれもいなかったからだと言われました。

私は、これは外圧の力だということ、そして同様な関心を持っているアメリカの市民たちの声もほとんどメディアから注目されないので、私たちもメディア報道を必要とするときには日本人に話してもらいたい・・有名な地震学者の石橋教授のような人に・・と彼らに言いました。

浜岡原発の深刻な危険性を裏付ける地質学的証拠を示されて、出席していた報道陣は明らかにショックを受けていました。政府への原発建設と運転認可申請書と供に、中部電力によって提出された航空写真は、いくつかの大きな断層が浜岡を横切っていること、そして会社が地震の危険を認知していることを明らかに示していました。彼らは注意深くそれぞれの原子炉を大きな断層線の中間に置いたのです。

「原子力発電所の基礎構造は岩盤上に直接固定されているので、リヒター・スケールでマグニチュード8.5の地震にも耐えられます」とこの電力会社のウェブサイトで主張しています。

私が行ったこの地域の岩石の調査から、施設下の堆積層は著しい断層の影響を受けていることを発見しました。1cm以下のずれの小さな断層もありました。

施設が乗っている岩石標本を手に取ると、それは指の中で砂糖のようにボロボロに崩れました。「でも電力会社はしっかりした固い岩石だと私たちには言いましたよ」と記者たちが言います。私は、「これが本当に固いと思いますか?」と言うと、彼らは笑い始めました。

昨年の7月7日、私が浜岡を訪れた同じ日に、石橋教授は札幌で開かれた国際測地学・地球物理学連合会議で、地震による核災害が日本だけでなく世界でも起こる危険があると訴えました。彼は、「原子力発電所の地震設計は、現代の地震学の観点から見て余りにも古いスタンダードを基にしていて不十分です。当局は地震による核災害が起こる可能性を認め、そのリスクを客観的に考慮しなければなりません」と語りました。

1999年9月の茨城県東海村で起きた日本の歴史に残る最大の原発事故の後で、周辺の住民たちをなだめるために大きく高価な緊急対応センターが各原発のそばに建てられました。

私は浜岡原発から数キロにあるこのセンターを訪れて、地震が原子炉冷却システムを破損し原子炉メルトダウンを引き起こすようななった事態に対して、日本は何の実質的な核災害計画を持っていないことに気づきました。

それに加え、緊急対応センターの関係者も言及していないことですが、地震によって使用済み燃料が保管されているプールの冷却水が失われる深刻な危険があります。昨年、米原子力規制委員会の2001年度調査に基づいた「科学と世界保障」誌の報告にもあるように、もしそれらのプール廃熱機能が損なわれ・・例えば、その中の水が漏れ出すことで・・燃料棒が過熱し燃焼すると、その中の放射性物質が大気中に放出されることになります。これはチェルノブイリをはるかに越える核災害になるかもしれません。

もし核災害が起きると、浜岡原発従業者たちと緊急対応センターの職員たちは直ちに致命的な放射線に被曝するでしょう。私が訪問したとき、緊急対応センターの技術者たちがセンター内の小さなシャワー室を案内し、個人用の”汚染除去”に使用していると言いました。しかし放射線を吸い込んで内部被曝してしまった緊急対応従業員たちにはそれは役に立たないでしょう。

神戸クラスのマグニチュードの地震で(神戸は浜岡と同じ引き込み帯の上にある)通信網、道路、鉄道、水道給水、下水道が破壊されたら、静岡県とそれ以遠の地域から何百万の住民をどのように避難させる計画なのか緊急対応センターの担当者たちに訊ねると、彼らは答えを持っていませんでした。

昨年、ジェームズ・リー・ウィット元米連邦緊急対策管理局長官が原発災害に対するアメリカ政府の緊急対応計画を査定するためにニューヨーク市民グループによって雇われました。ニューヨーク市からほんの80kmにあるインディアン・ポイント原発の災害への適切な対応計画が政府には何もないことを知って市民たちはショックを受けました。

日本政府も準備がない点では同じです。というのは、そのような災害を食い止め、処理できる適切な対応策などないからです。未然に防ぐことが考えられる唯一の効果的手段なのです。

1998年、51歳の日系アメリカ人技術者で、アメリカのジェネラル・エレクトリック(GE)に1980年から内部告発で解雇される1998年まで働いていたケイ・スガオカ氏は、GEがその得意先の東京電力(TEPCO)から隠していたと彼が主張する1989年の原子炉検査の問題を日本の原子力規制委員たちに警告しました。これによっていくつもの原発が停止に追い込まれ、日本の電力産業の改革がもたらされました。

☆ 訳注:これに関するTV報道:
その後、GEが実際に東京電力に通報していたことがGEの文書で明らかになりました・・しかし東電はその危険を引き起こす要因を政府の規制委員会に通知しなかったのです。

同じ内部告発者になった日本の原子力技術者の菊地洋一氏は、原子炉内の振動による冷却システム用パイプの亀裂といった、日本の原発施設のたくさんの安全問題について個人的に話をしてくれました。電力会社は”儲けを増やし、政府の監視を逃れるために、危険なゲームの賭けをしている”と彼は言います。

スガオカ氏も同じ意見で、「ほかのすべての問題の上に、もっとも恐ろしいことは、すべての原発が老朽化していて、常に強力な放射線と熱に晒されている配管システムや接続部の劣化を招いていることです」と語っています。

ほとんどの内部告発者たちのように、スガオカ氏と菊地氏は市民のヒーローですが、今では失業中です。

独立のアメリカ科学者グループの放射線と公衆衛生プロジェクト(RPHP)は、原発周辺に住む子どもたちから4,000の乳歯を集めました。そしてこれらの歯は検査され、ストロンチウム90という原発からの放出物質中の放射性核分裂生成物のレベルを測定されました。

生まれる前の子どもたちはお母さんの飲む水や食事を通してストロンチウム90に被曝されている可能性があります。原発の近くに住んでいる人は誰でも慢性的に食べ物と飲料水を汚染する低レベルの放射線をからだの内部で被曝しているのです。ガンや乳幼児死亡率そして知的障害をもたらす低体重出産の増加は、何十年間にわたる放射線被曝によるものと関連づけられています。

しかし、最近2003年1月にヨーロッパ議会のために出版された欧州放射線リスク委員会(ECRR)による低レベル放射線に関する独立報告書は、1945年から引き続きアメリカ政府によって日本で行われている広島と長崎の被曝者に対する原子・水素爆弾の研究が、放射線被曝のリスクを1000倍も過小評価していることを立証しています。

さらに、今年の3月26日・・アメリカの歴史上最悪の核災害であったペンシルバニア、スリーマイル島原発事故の25周年記念日のイブに・・放射線と公衆衛生プロジェクト(RPHP)は事故の影響に関する新しいデータを公表しました。これによると、風下の各郡で幼児死亡率が53%も上昇し、甲状腺ガンが70%以上増加しています・・ほかのすべての長・短期健康障害のように、アメリカ政府からは決して公表されないデータです。

日本で核災害が起きるかどうかという問題ではなく、いつそれが起きるかという問題なのです。

チェルノブイリ後の旧ソ連のように、日本は将来の世代が犠牲になる放射線疾病に苦しむ国になるでしょう。広範囲の農業地域汚染によって国民が深刻な健康障害を被るのは確実でしょう。経済は二度と元に戻らないかもしれません。

極めて危険な大地震と多くの安全性の問題と核廃棄物処理問題を考えれば、現在その原子炉の約半分が停止している日本が、原子力発電所を天然ガスといった化石燃料に転換すべき今が時期であり急務でもあります。この方法は新しい発電所を建設するよりも安価です。また、政治的問題やほかの障害がクリアされれば、巨大な埋蔵量を有するシベリアから比較的安いコストで天然ガスをパイプで送れることもできるでしょう。アメリカでは市民たちの圧力で電力会社に切り替えを促し、いくつかの原発が天然ガスに転換しています。

原子力の罠から逃れるこの方法を解説して、アメリカの大気核実験を停止させる助けをしたことで有名なアメリカの科学者アーネスト・スターングラス博士はこう語っています。「つい最近ではコロラドのフォート・セイント・ブレイン原子炉が、相次ぐ原子炉の問題の後で、化石燃料、実際は天然ガス、に転換されました。初期の原子炉はシンシナチーのジマー発電所ですが、当初は原子力発電所として設計されたのですが、運転開始前に天然ガスに変換されました。この転換はどのプラントでも可能でそのコストは新しいプラント建設費のわずかな分(20〜30%)で済みます。今あるタービン、トランスミッション設備、土地が使えるからです」。

天然ガスに転換してから、フォート・セイント・ブレイン発電所は原子力エネルギーからの2倍の発電量をはるかに効率的に安価に供給しました・・もちろん核の問題は一切なくです。

今こそ、将来の世代と日本経済の救済のために原子力燃料から化石燃料へ切り替える時です。
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ローレン・モレは、ローレンス・リバモア核兵器研究所でユッカマウンテン・プロジェクトに関わっていた地球科学者です。1991年そのプロジェクトとリバモア研究所での科学データ隠ぺいを報告したことで内部告発者になりました。彼女は独立の国際的放射線専門家であり、カリフォリニア、バークレー市の環境委員です。日本には4回訪れ、放射線と平和問題に関して日本の市民グループ、科学者、議員たちと一緒に活動しています。彼女の連絡先はleurenmoret@yahoo.comです。

原文:The Japan Times "Japan's deadly game of nuclear roulette"

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